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伝統型の構法とは

1.木の個体差に従う技術

木で造る構造体は、木の性質が技術を規定するだろうと私は考えてきました。
それは木が自然の素材であることからくる規定ですが、具体的には製材された材木にも個体差が生じる現象となって現れます。
本来の木の技術は、この個体差を上手にやり繰りすることが根底にあったはずですが、現在一般的になった工法は、この個体差を消去してしまう技術です。
木を一律な性能の工業製品に近づけることによって、住宅の構造的な性能の平均化と生産の効率を上げることを目的にした技術の体系が確立されつつあります。
したがって現在では木造住宅の技術は、木の個体差に従う技術と木を一律に扱う技術とに分けることができます。
一般的には木の個体差に従う技術を伝統技術、その技術で造られた構法を伝統構法と呼んで、他の構法との差を強調します。
私は構造家の山辺豊彦さんとの十数年の共同作業の中で、構造を語る場合に伝統構法であるかどうかは問題ではなく、木の個体差に従う技術とはどのようなもので、その技術に従ってどのように造れば、快適で長持ちして地震や風に耐える住宅ができるのか、と考えてきましたが、そのような伝統型の構法として体系化したのが、渡り腮構法と名づけた構法です。


2.渡り腮(わたりあご)構法

渡り腮構法は、自然に乾燥した木を使って、構造体の素材としては弱点になる木の性質(乾燥収縮が生じる・強度や収縮に個体差がある・強度や収縮に異方性がある)を、構法の中核に据える技術体系として考えられました。
構造力学に基づく解析と実大の試験体の実験とを繰り返して、渡り腮構法が一つの構造システムとして成立する技術を積み重ねてきました。
渡り腮構法によって、杉やヒノキを自然乾燥した材木で構成する構造体・土壁の耐力壁・杉や桧の床や天井とすべて国産の材木を使用して、金物に頼らず、合板等の建材を使わない木造住宅を、構造力学上のシステムとして造り上げることが可能になりました。
私たちの社会は、このような「木の個体差に従う技術」を本当になくしてもよいのかどうかの、瀬戸際に立っていると思っています。


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